海事代理士なのに「海事六法」を持っていなかったワタシ
ワタシは海事代理士という資格を持っています。
海事代理士は,海事代理士法第1条に基づき,船舶法,船舶安全法,船員法などの海事関係法令に関する行政機関に対する申請や届出などの手続きを代理する専門職です。いわば,海の法律の専門家です。また,これらの仕事は海事代理士しかできない「独占業務」でもあります。
海事関係の法律は,これらに限らず多岐にわたります。そうした法令を収録した専門書に「海事六法」があります。読んで字のごとく,海の世界の六法全書です。
海の法律の専門家なのですから,海事代理士なら当然持っている一冊だと思われるかもしれません。
ところが,ワタシはこれまで持っていませんでした。
理由はいくつもあります。
まず,値段が結構高いこと。分厚い本なので,持ち運びにも不便です。しかも,実際の仕事で使う法律は限られています。法律は頻繁に改正されるため,せっかく購入しても,いつまでも最新の状態で使えるわけではありません。
さらに,海事六法は縦書きです。普段,横書きの文章を読み慣れているワタシには,どうにも読みづらいのです。
おまけに,文字が小さい。老眼鏡なしでは,なかなか厳しいものがあります。船舶法や船員法など,古いカタカナ表記が残る法律となれば,なおさらです。
これだけ理由がそろえば,買わない言い訳としては十分でしょう。
ワタシは必要な法令をインターネットで検索し,プリントアウトして使っていました。A4判の用紙に印刷してファイルに綴じれば,軽くて読みやすく,必要な条文もすぐに見つかります。気軽に書き込みもできます。法改正にも対応しやすく,実務上はこれで十分用が足りていたのです。
ところが,塩竈市に海事代理士事務所を開いてから,少し考えが変わりました。
ワタシが知っている海事関係法令といえば,海事代理士試験の勉強で学んだものが中心です。しかし,実際の海事の世界には,試験で学ぶ法令以外にもさまざまな法律や命令があります。
ワタシが知らない法令の中にも,仕事に関係するものがあるのではないか。
必要な法律だけを探して読んでいると,自分が知らない法律の存在に気づかないまま,過ごしてしまうのではないか。
そんな疑問が浮かんできたのです。
そこで,日頃からお世話になっている先生に尋ねてみました。
「先生,海事六法って必要ですか?」
すると,先生は心底驚いたような顔をされました。
「海事関係法規のプロである海事代理士が,海事六法なしでどうやって仕事をするの?」
本当に驚かれた様子でした。
ワタシは,法律は頻繁に改正されること,必要な法令はインターネットですぐに検索できること,横書きで文字も大きいのでプリントアウトした方が読みやすいことなどを説明しました。
「まあ,確かにそれで用は足りるけどね」
先生はそうおっしゃいましたが,どこか納得しきれない様子でした。
ワタシとしても,実際に仕事で使う条文を確認するなら,インターネットから最新の法令を取得する方法が便利だと思っています。ですから,これからも実務ではプリントアウトした資料を活用するつもりです。
しかし,必要な法令だけを探して読むことと,海事関係法令の全体像を知ることは,別の話です。
海事六法には,法律だけでなく,それに関連する政令や省令などもまとめて収録されています。関連する法令を続けて確認できるため,個々の法律がどのようにつながっているのかを知るうえでも便利です。
結局,ワタシは海事六法を購入しました。
実際にページを開いてみると,やはり縦書きにはなかなかなじめません。細かい文字を追っていると,目がチカチカします。
それでも,普段は意識していなかった法令が目に入り,海事関係法規の広がりを感じることができました。
まるで,「ようこそ,海の法律の世界へ」と言われているようです。
決して安い買い物ではありませんでしたが,単に条文を調べるためだけでなく,自分の知らない法令に目を向け,知識の幅を広げるための教材として考えれば,買ってよかったと思います。
これは,行政書士の仕事にも通じる話です。
行政書士の仕事でも,依頼された手続きに必要な法律や書類を調べることは欠かせません。しかし,目の前の申請書を作成するだけでなく,関連する法令や制度まで理解していれば,お客さまから相談されたときに,より広い視点で考えることができます。
もちろん,すべての法律を暗記する必要はありません。必要なときに最新の法令を調べ,正確に対応することが大切です。
ただし,そもそも自分が知らない制度については,調べることすらできません。
専門家として仕事を続けるには,必要な情報を探す力だけでなく,自分の知らない世界がまだあると意識することも大切なのだと思います。

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