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「個人の自由」と「仕事の身だしなみ」のあいだ

よく利用するスーパーに,「ちょっと困ったな」と思う店員さんがいました。30代後半くらいの男性で,髪は「いつ洗ったのだろう」と思うほど脂ぎっていて,服装も決して清潔感があるとは言えませんでした。

大変失礼な言い方になりますが,「食品を扱うお店の店員さんとして,これはどうなのだろう」と,ワタシは感じていました。

しばらくすると,店内の「お客さまの声」に,そのことを指摘する投書が掲示されました。それに対する店長さんの回答は,「ご指摘は受け止めるが,働き方改革が進む中,ここの店員の服装などについて強制することはできない」という趣旨のものでした。

これを読んで,ワタシは思わず「はぁ?店長,何を考えているの?」と思ってしまいました。

もちろん,髪型や服装には個人の自由があります。第三者が好き勝手に口を出してよいものではありません。しかし,仕事には「その仕事に適した格好」というものもあるのではないでしょうか。特に食品を扱う仕事なら,清潔感は単なる好みの問題ではありません。お客さまが「ちょっと不快だな」と感じれば,そのお店から足が遠のくことだってあります。店舗運営,経営の観点から,管理者である立場の店長なら決して看過してはいけない問題のはずです。

ところが,その掲示がされてからしばらくすると,投書はいつの間にかなくなり,例の店員さんも店頭から姿を消しました。おそらく,投書そのものに対して誰かから何らかの意見があり,お店としても対応せざるを得なかったのだと思います。

この一件を見ていて,ワタシは自分の仕事のことを考えました。

行政書士も,基本的には人と会って仕事をする商売です。

相談に来られた方からすれば,ワタシは初対面の人間です。どんな人物なのかも分かりません。そんな相手に大切な個人情報や家族の事情を話していただき,財産や相続のことを任せていただくわけです。そう考えると,きちんとした身なりや態度で接することは,単なる「格好」の問題ではないと思います。

「人間は見た目より中身」とは,昔からよく言われます。もちろん,その通りだと思います。ただし,それはお互いをよく知り,信頼関係ができてから言えることなのではないでしょうか。

初対面で名刺をお渡しする段階では,まず相手に「この人なら大丈夫そうだ」と思っていただく必要があります。きちんとした身なりや丁寧な態度は,相手に媚びるためではありません。「あなたを大切な相手として扱っています」という,ひとつの敬意の表し方なのだと思います。

最近は「働き方改革」や「個人の尊重」という言葉をよく耳にします。もちろん,どちらも大切なことです。

一方で,誰かを相手に仕事をする以上,「相手がどう感じるか」を考えることも同じくらい大切なのではないでしょうか。

ワタシ自身,「きちんとした態度と格好」は,仕事をする上での「第0次予選」だと思っています。

どんなに仕事ができても,最初から相手に不快感を与えてしまえば,その先の「本選」に進むことすらできません。

そんなことを改めて考えさせられた,近所のスーパーでの出来事でした。

……と,ここまでの話を妻にしたところ,

「ああ,その人なら,バックヤードで仕事してたわよ」

と言われました。

どうやら,ワタシが勝手に「店頭から消えた」と思っていただけで,ちゃんと働いていたようです。

なるほど。

「個人の自由」も大切ですが,「適材適所」という言葉も,なかなか奥が深いものです。

そして何より,スーパーのバックヤード事情まで把握している妻には,ワタシの観察力も完敗でした。

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