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退職代行と弁護士法72条 ― “使者”理論の射程を考える

先日,退職代行サービス大手「モームリ」を運営する会社の社長が,弁護士法違反の疑いで警視庁に逮捕されたとの報道がありました。報道によれば,報酬を得る目的で退職希望者を弁護士に紹介し,その見返りとして紹介料等を受け取っていた疑いがあるとされています。いわゆる「非弁提携」と呼ばれる類型で,弁護士法が禁止している行為に当たる可能性があるとされたものです。

退職代行サービスとは,本人に代わって勤務先に退職の意思を伝えるサービスです。通常は「退職します」という意思表示を本人に代わって通知する,いわば“連絡代行”が中心業務と説明されています。この点については,民法上の「使者」という概念で整理されることが多いところです。

民法第99条は次のように定めています。

1 代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は,本人に対して直接にその効力を生ずる。

2 前項の規定は,使者について準用する。

条文自体は使者を定義していませんが,一般に使者とは「本人の意思表示を単に伝達するだけの者」と理解されています。具体的には,①自らの判断を加えない,②内容を変更しない,③交渉をしない,④法律的評価を行わない,という点が特徴です。

「◯月◯日をもって退職します,というご本人の意思です」と,そのまま伝えるだけであれば,理論上は使者行為と説明できるわけです。

しかし,現実の退職場面はそれほど単純ではありません。有給休暇の消化,未払い賃金の問題,退職日の調整,会社からの引き止めへの対応,場合によっては損害賠償請求の示唆など,さまざまな問題が生じます。これらについて条件を調整したり,法的見解を示したり,相手方の主張に反論したりすれば,それはもはや単なる使者ではなく「代理」や「交渉」の領域に踏み込むことになります。

弁護士法72条は,弁護士又は弁護士法人でない者は,報酬を得る目的で,業として法律事件に関する代理・和解その他法律事務を取り扱ってはならないとされています。したがって,退職代行業者が実質的に交渉を行えば,非弁行為に該当する可能性が生じます。退職代行サービスの需要が高まっている現在,この業務は一見すると社会的ニーズに応えるものですが,その法的限界は決して広くありません。行政書士の中にも業務として検討する方がおられますが,行政書士法上許される『書類作成・相談』と,弁護士法上の『交渉・代理』は峻別されるべきであると思います。

ワタシは,コンプライアンスの観点から退職代行業務は受任しない方針をとっています。社会的に必要とされるサービスであっても,法の枠組みの中で行われなければ意味がありません。グレーゾーンに足を踏み入れる可能性がある以上,慎重であるべきだと考えています。

今回の件について,報道では「弁護士法違反になるとは思わなかった」との趣旨の説明も伝えられています。しかし,法律を前提に事業を展開する以上,その射程を理解しておくことは不可欠です。知らなかったでは済まされない世界だと,改めて感じました。

ワタシは法律を扱うことを生業としています。だからこそ,法律を守ることは当然として,その範囲内で困っているお客さまのお役に立つ道を探り続けたいと思います。学び続ける姿勢こそが,専門家としての最低限の責任だと,今回の報道を通じて強く感じました。

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