地名が語る土地の記憶――農地転用の現場で思うこと
行政書士として農地転用の仕事に携わっていると,思いがけず興味深い地名に出会うことがあります。
図面や申請書類を前にして,「これはどういう由来の地名なのだろう」と手が止まることもしばしばです。
近年は,行政機関による住居表示の変更などにより,古くから受け継がれてきた地名が姿を消しつつあります。しかし,地名というものは,偶然付けられたものではありません。そこには必ず,その土地がどのような場所であったのか,どのように使われてきたのかという理由が込められています。
例えば,仙台市宮城野区には「弁当二番」「弁当三番」という,初めて聞くと首をかしげてしまうような地名があります。
これは,かつて足軽たちが陣を張り,弁当を食べた場所に由来するものだそうです。昔は「弁当一番」も存在していたものの,住居表示の変更などにより,現在は残っていないという説もあります。地名一つから,当時の軍事や暮らしの風景が浮かび上がってくるようで,思わず想像が膨らみます。
全国に目を向けると,「悪土(あくど)」という地名も各地に見られます。
これは「低くて水はけの悪い土地」「氾濫原」を意味するとされ,住むにも耕すにも苦労の多い土地であったことを示しています。農地転用の観点から見ても,排水や地盤に注意が必要な場所であることが多く,地名が持つ情報の確かさに感心させられます。
また,蛇や蛭といった生き物の名,あるいは洪水や湿地を連想させる地名は,「ここは危ないぞ」という先人からの警告だといわれています。
「沼(ヌマ)」「牟田(ムタ)」「仁多・新田(ニタ)」「谷地(ヤチ)」などは,川の氾濫や湧水の影響を受けやすい凹地や低湿地を指す名称で,洪水や浸水リスクの高い場所に多いとされています。書類上の地名を見ただけで,土地の性質がある程度想像できるのは,実務を行う者にとって大きなヒントになります。
さらに,日本で数少ない石油産出地として知られる秋田県には,「油田(あぶらでん)」という,文字どおり「油が出る田」に由来する地名があります。また,石油の古い和名である「臭水(くそうず)」に由来する「草生津川(くそうづがわ)」など,地名そのものが地域の自然環境や産業の歴史を雄弁に物語っています。
こうして見ていくと,地名は単なる住所表示ではなく,土地の記憶そのものだということを実感します。
仕事で地名に触れるたび,「ああ,なるほど,だからこの土地なのか」と腑に落ちる瞬間があり,歴史に思いを馳せる時間はなかなかに楽しいものです。
行政書士になって初めて出会い,初めて意味を知った地名も数え切れません。
農地転用という実務の中には,法令や制度だけでなく,土地が歩んできた時間を感じ取る楽しさもあります。行政書士の仕事には,こうした知的な面白さが静かに息づいているのです。

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