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「年金はいつからもらうのが得か?」という議論に惑わされないために

最近,ネットやYouTubeなどで「年金は何歳からもらうのが得か?」というテーマをよく見かけます。ワタシも行政書士として日々お客さまと接する中で,こうした話題が出ることがあります。ワタシは年金は「長生き保険」という考え方なのですが、この話についてもう少し議論を深めてみようかと思います。

年金は「損得」で考えるべきものか? | あいはら行政書士事務所

そうした議論を見ていて,いつも思うのは「今もらう10万円」と「5年後にもらう10万円」は,同じ金額でも価値が違うということです。これは,ビジネスの世界で投資判断をするときに使われる「NPV分析(正味現在価値分析)」の考え方に通じます。つまり,将来の収入や支出を現在の価値に割り引いて,合理的な判断をするというものです。

ところが,厚生労働省の資料や,巷でよく見かける「損得勘定」の動画や記事では,この時間価値の視点が欠けているように感じます。単純に累積金額だけを比較して「何歳まで生きれば得か?」という議論が展開されがちです。

たとえば,累積額だけで比較した場合,60歳から前倒しで年金を受給した場合と,65歳から受給した場合の損益分岐点は80歳10ヶ月とされています。しかし,利子率を2%と仮定してNPV分析を行うと,損益分岐点は約82歳前後にずれます。さらに利子率を3%に引き上げると,損益分岐点は約84歳まで上昇します。つまり,利子率が高くなるほど,繰り上げ受給が有利になるということです。

加えて,税金や社会保険料を考慮すると,損益分岐年齢はさらに上昇します。利子率2%の場合は約84歳,利子率3%の場合には約86歳となります。これは,65歳以降の年金には「公的年金等控除」が適用され,税負担が軽くなることや,所得によって医療費の自己負担割合が変わることなどが影響しています。

しかし,繰り上げ受給には注意すべき点もあります。たとえば,65歳前に障害を負った場合,障害年金への切り替えができないというデメリットがあります。これは,障害年金の受給資格が「初診日が65歳未満」であることが条件だからです。

ここまで読んでいただいてわかるように,年金制度は「何歳まで生きるか」という前提だけでなく,経済情勢(利子率)や税制,社会保険料の仕組みによっても損得が変わってきます。つまり,「○○歳からがお得」という絶対的な正解は存在しません。

こうした複雑な制度の中で,自分にとって最適な受給年齢を選ぶには,家族構成,収入,資産状況,健康状態などを総合的に考慮する必要があります。そして,具体的な受給開始時期の判断や資産運用の相談については,どうしても判断に迷う場合には,社会保険労務士やファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談することが適切です。

行政書士には,年金の受給開始時期や資産運用に関する個別判断を行う業務は行うことができません。でも,あふれる情報の中からその真偽や有用性を見極め,お客さまの視点に立ってわかりやすくお示しすることも大切な役割のひとつです。 また,必要に応じて社会保険労務士やファイナンシャルプランナーなどの専門家につなぐ橋渡しをすることも,行政書士としての重要な役割のひとつです。このような制度の背景を丁寧に読み解きながら,生活者の目線で情報を届けることに,ワタシは大きなやりがいを感じています。制度の隙間にいる方々が,自分らしい選択をできるよう,これからも誠実に向き合っていきたいと思います。

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