山椒の収穫
ワタシの家の庭には,一本の山椒の木があります。引っ越してくる前にここに住んでいた方は,庭いじりがとても好きだったようで,季節ごとにさまざまな花や実をつける草花,植木がたくさん植えられていました。その心尽くしのおかげで,それを引き継いだワタシも庭の恵みを大いに楽しませていただいています。
中でも,食べられる植物が多く,甘柿やブルーベリー,木イチゴなどは季節ごとに収穫し,ささやかな喜びとなっています。そして,その中でも特にワタシのお気に入りが山椒の木です。山椒は古くから日本の食文化に根ざした香辛料であり,その実からは他の植物にはない高貴で鮮烈な香りが立ちのぼります。そして,口に含んだときのピリリとした刺激が料理に深みとアクセントを与えてくれます。
今年も,山椒の実が緑色にふくらみ,収穫の時期がやってきました。ワタシは妻と二人で,庭に脚立を立て,収穫作業を行いました。山椒の木には鋭いとげがあり,油断をするとすぐに指先を傷つけてしまいます。そのため,厚手の服を着込み,革の手袋をつけ,ヘルメットまでかぶって万全の装備で臨みました。
およそ1時間かけて,ざるに一杯分の山椒の実を収穫しました。取りすぎても使いきれず無駄になってしまうので,ほどほどの量を目安に,木の高い場所にある実は今回は見送ることにしました。
さて,山椒の収穫で最も手間がかかるのは,その後の作業です。実に混じってついてくる細かい枝や葉を一つひとつ取り除くのは,根気のいる作業です。ワタシと妻は並んで腰を下ろし,2時間以上かけてようやく枝葉を取り除きました。市販の山椒が意外と高価なのも,この手間を考えれば納得がいきます。
枝葉を取り除いた山椒の実は,さっと下ゆでし,冷水にさらして一晩かけてあく抜きを行います。翌朝には,山椒の実はしっとりと落ち着き,より一層その香りが際立ちます。さっそく朝食に「山椒かゆ」を炊いてみました。味付けは塩だけ。それでも,ご飯の一粒一粒に山椒の香りがふわりと溶け込み,ピリリと舌先をくすぐる辛さが心地よく,ご飯がすすみます。
山椒という植物は,小さな実の中に驚くほどの存在感を秘めています。その香りは古来より「木の芽」と呼ばれ,日本料理において欠かせない存在でありながら,現代では日常的に触れる機会が減ってしまいました。だからこそ,自宅の庭でこうして収穫し,香りや味を直接感じられることのありがたさを,ワタシは改めて噛みしめています。
自然の恵みをいただくということは,手間を惜しまないことでもあります。しかしその手間こそが,香りと味をより一層際立たせてくれるのです。ワタシにとって山椒の収穫は,季節の移ろいを感じる大切な行事となっています。


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