ワタシは，駆け出しの行政書士として日々活動しています。仕事をしていると，お客さまからさまざまな質問をいただきます。特に，区役所などで開催される「無料相談会」では，訪れる方々から多岐にわたる分野についてのご相談を受けることが多く，毎回新しい発見があります（そして，本当に勉強になります）。

もちろん，すべてのご質問に即座に答えられるわけではありません。制度や手続きの内容によっては，そもそも知らないこともありますし，ケースごとに判断が異なり，一言で結論を出せないことも多々あります。そんなとき，「わかりません」と率直に伝えるのは，とても勇気がいることだと思います。

もちろん，プロの行政書士として，「わかりません」とだけ答えて終わるわけにはいきません。ですから，ワタシは「ご質問の何がわからないのか」「どうして今すぐ回答できないのか」という理由を丁寧にご説明し，ご納得いただいた上で，後日必ず確認してフォローするようにしています。とはいえ，「わかりません」と伝えたことで，お客さまの信頼を失うのではないかと不安になることもあります。

サラリーマン時代にも，似たような経験がありました。会社にはさまざまな人がいて，「わからない」と答えることで自分の評価が下がるのではないかと恐れ，質問に対して的外れなことを話したり，知っていることを並べてごまかし，その場を取り繕う人もいました。ワタシ自身も，上司から案件について説明を求められた際に「それはわかりません」と正直に答えたことがあり，後で同席していた先輩から「何で少しでも知っていることを話さないんだ」と叱られたことがあります。そのときは，サラリーマンにとっては，質問に対して「わかりません」と答えることが，自分の評価を下げる「NGワード」なのだと感じました。

とはいえ，企業の中であれば，上司や他の社員が話の軌道修正をしてくれる可能性がありますし，仮にミスがあったとしても，それは会社全体のリスク・失点として処理すれば済むことです。もちろん，ミスリードした社員の発言に責任が伴うことは間違いありませんが（こういう場合，通常は，担当者の評価には大きな「×印」がつくことになります），それでも，お客さまなど、相手方には迷惑をかけずに済ませる余地があります。しかし，行政書士の立場でお客さまに同じことをしてしまったら，それは全く違う結果をもたらします。

行政書士が対応するのは，その回答によって人生や生活が大きく左右されるお客さまです。「わかりません」と言えず，取り繕って不正確なことを伝えてしまうと，お客さまをミスリードし，大きな迷惑をかけてしまうことになります。また，一度誤ったことを言ってしまうと，それを取り繕うためにさらに嘘をつくことになり，自身の信用や行政書士全体の信頼を大きく損なうことにもなりかねません。

「わかりません」と伝えることは，お客さまを失うリスクもあり，やはり勇気がいることです。しかし，士業としてのプライドと矜持を持ち，わからないことについては正直に「わかりません」と伝え，その上でしっかりとフォローし，正確な情報を提供することで，お客さまにとってより良い道を一緒に考えていきたいと思っています。

ワタシは小さな信用を一つひとつ積み上げていくことが，やがて大きな信頼につながると信じています。だからこそ，これからも「わからないことを『わかりません』と言える勇気」を持ち続けたいと考えています。