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すぐに役に立つことは,すぐに役に立たなくなる

ネットを見ていたところ,興味深い記事を見つけました。

黒坂岳央さんの「コスパ思考の人生はコスパ悪い」です。

https://agora-web.jp/archives/250425004659.html

現代社会では「コスパ」や「タイパ」といった効率重視の考え方が広まり,それがまるで成功の秘訣であるかのように語られています。しかし,黒坂さんは,最終的に大きな成果を上げる人は,短期的には「コスパ最悪」とも言える非効率なプロセスを積み重ねていると述べています。その地道な努力こそが,後の圧倒的な成果につながっているというのです。

私もこの考え方に強く共感します。そして,この話を読んで,「すぐに役に立つことは,すぐに役に立たなくなる」という言葉を思い出しました。

この言葉は,超進学校である灘中学校・高等学校の国語教師,橋本武先生が生徒たちに繰り返し伝えた教育哲学の核心です。現代社会では「効率」や「即戦力」が重視されがちですが,橋本先生はその対極にある「深く学ぶこと」「自分で考え抜くこと」の価値を,国語教育を通じて生徒に体得させようとされていました。

橋本先生は,中勘助の小説『銀の匙』を教材に,中学3年間かけてじっくりと読み込む授業を行っていました(こういう,一見受験とは無関係な,思い切った授業ができるところに超進学校のゆとり,生徒の優秀さを感じます)。一冊の本にこれほどの時間をかける理由は,「速さ」や「暗記」ではなく,「自分の心で感じ,考え,掘り下げる」ことこそが,人生を支える本当の学びになると信じていたことによるそうです(「丸暗記大好き」なワタシには耳の痛い話です)。

現代は情報があふれ,瞬時に答えが手に入る時代です。しかし,橋本先生は「すぐに役立つこと」は,社会や技術の変化とともにすぐに陳腐化してしまう危うさを指摘しています。たとえば,今役立つ知識やスキルも,数年後にはまったく価値を失っているかもしれません。一方で,「すぐには役立たない」けれど,自分で考え抜いた経験や深い理解は,一生の財産となり,どんな時代にも応用できる力となるのです。

すぐに役に立つことは,すぐに役に立たなくなる」。この言葉は,目先の効率や成果にとらわれず,じっくりと自分の頭で考え,感じ,学び続けることの大切さを教えてくれます。橋本先生の『銀の匙』の授業は,今も多くの教育現場や社会人の学び直しの場で再評価されています。本当に価値ある学びとは何か――その答えは,急がず,焦らず,深く考える中でこそ見えてくるのかもしれません。

私の仕事も同じだと思います。行政書士の仕事は多岐にわたり,手続きやノウハウ自体は専門書やネットを参照すれば比較的容易に手に入ります。しかし,その手続きに至る背景や,お客さまの心情などは,業務にしっかり向き合い,対話を重ねなければ見えてこないものです。知識だけではわからない,業務やお客さまの背景にある思いをしっかりと受け止め,お客さまに喜んでいただける,引き出しの多い,厚みのある仕事ができる行政書士を目指して参りたいと思います。

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