「白書」を作った話
30年前の霞ヶ関での生活は,日々慌ただしく,あっという間に過ぎて行きました。
コレまでのサラリーマンライフでは経験のないこと,信じられないこともたくさんありましたので,それについていくつか記してみたいと思います。
日本の中央官庁では各省庁とも「白書」というものを作成しています。白書とは政治社会経済の実態及び政府の施策の現状について国民に周知させることを主眼とするもの。 政府の施策についての現状分析と事後報告を中心とした公表資料で,おそらく一番有名なのは,かつて経済企画庁,今は内閣府が発行している「経済財政白書(いわゆる経済白書)」ではないでしょうか。経済産業省は「通商白書」,法務省からは何と「犯罪白書」,各省庁から様々な白書が公表されています(外務省は,例外的に「外交青書」といいます)。白書は,その役所のもっとも権威のある出版物と言われており,「閣議了解」を経て正式に決定されます。つまり,報告されたものは,その官庁ではなく日本国政府(=内閣)の正式な見解として取り扱われるのが特徴です。
残念ながら平成20年で廃止となってしまったのですが,ワタシの働いていた国民生活調査課では,「国民生活白書」を作っていました。
年が明けて間もない2月頃,国民生活白書作成の準備が始まります。執筆責任者となる課長が,その年のテーマを決定し,課員に分担が割り振られ,準備が始まります。初めは大雑把なストーリーを作り,データを分析し,その結果を踏まえ,仮説を立て,さらに分析してゆきます。毎週の課内打ち合わせで,一週間の成果を報告し課長のアドバイスを頂き,分析を深めてゆきます。これを毎週繰り返し,文章を作り白書ができあがってゆきます。ここまででも大変な作業なのですが,この後もっと大変な事が待っています。
前述の通り,「白書」というのは,その省庁の見解ではなく,内閣の見解となるため,他の省庁の了解を取る必要があります。このため行われるのが「各省折衝」です。
経済企画庁でまとめた白書案を各省庁に配布し,期限を定め,意見を集約し,各省庁の意見を踏まえ,表現や見解を調整するのです。これがメチャクチャに大変でした。
ワタシは,初めの年に「教育の安全・安心」をテーマに分析を行ったのですが,これが,文部科学省のご機嫌をえらく損ねたらしく,分厚いファイル一冊分の意見が寄せられました(通常はA4紙数枚程度)。サラリーマンの世界はどこでも同じですが,まず担当者間で協議を行い,まとまらないものは課長補佐,課長と交渉のステージが上がり,調整が行われてゆきます。ワタシの時は特に難航したのですが,最終的にまとまったのは,調整期間最終日の28時(=翌日の午前4時)でした。折衝を終え,タクシーで帰宅した時に,首都高の上で見た朝日の美しさは,今でもはっきりと覚えています。そして,白書は11月に無事公表.長い1年が終わります。
今,手元には,当時作った白書が残っています。パラパラとページをめくると当時の大変だった思い出が次々と蘇ってくる宝物です。大変だけど,本当に楽しい経験でした。
