海上運送法から見る安全確保の境界線――辺野古沖転覆事故を海事代理士が考える(前編)
今回,辺野古で発生した事故は,修学旅行で参加していた女子高生1名を含む2名が亡くなるという痛ましい海難事故となりました。
通常から,海に関わる法律を扱う海事代理士として,今回の辺野古沖での転覆事故については,制度面から整理しておきたい点がいくつかあります。
まずは,亡くなられた方のご冥福をお祈りするとともに,ご遺族・関係者の皆さまに心よりお悔やみ申し上げます。
本稿では,特定の立場や活動の是非について評価するものではなく,あくまで海上運送に関する法制度の観点から,どのような点が問題となり得るのかを整理することを目的としています。
1 目の前で行われていたのは何か
報道されている内容が正確であることを前提にすると,当該の小型船は,平時は抗議活動に使用され,今回は修学旅行生の見学を目的として運航されていたとされています。
ここで整理しておきたいのは,船の利用について
- 自己の活動として船を使用する場合
- 第三者を乗せて移動させる場合
の違いです。
前者はあくまで自己使用の範囲にとどまりますが,後者は他人を運送する行為であり,法的には旅客運送として評価され得る場面となります。
運航主体の目的や性格にかかわらず,第三者を乗せて移動させるという実態があれば,一定の場合には海上運送に関する法規制の対象となり得るという点は,実務上重要なポイントです。
2 海上運送法上の位置付け
海上で人や物を運ぶ行為のうち,一定の要件を満たすものは,海上運送法の規制対象となります。
特に旅客を運送する場合には,
- 旅客定期航路事業
- 旅客不定期航路事業
といった区分に応じて,許可や登録,安全管理体制の整備などが求められます。
ここで誤解されやすいのが,「有償か無償か」という点です。
実務上は,必ずしも対価性だけで判断されるものではなく,
- 他人の需要に応じているか
- 反復継続性があるか
といった事情も考慮され,事業に該当するかどうかが判断されることがあります。
3 「ボランティア」と法規制の関係
報道では,今回の運航について「ボランティアで行われた」との説明も見られます。
しかし,仮に無償であったとしても,
- 一定の頻度で
- 第三者を対象に
- 移動手段として提供されている
といった事情が認められる場合には,海上運送法上の規制対象となり得る余地があります。
これは市民活動や教育活動であっても同様であり,活動の目的や理念とは別に,安全確保のための法的枠組みが適用される可能性があるという整理になります。
本稿の前編では,まず「どのような場合に海上運送として扱われ得るのか」という入口部分を整理しました。
後編では,運航体制や運行者の選定責任といった観点から,もう少し具体的に考えてみたいと思います。

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