著作権の壁がテレビを滅ぼす? ― 利用者不在のルールに思うこと
自宅で使っていたビデオレコーダーが,ついに壊れました。
使っていたのは,指定したチャンネルを一日中録画し,過去20日分を自動的に保存してくれるタイプのレコーダーです。ワタシは地上波のほぼ全チャンネルを録画しており,ニュース番組やドキュメンタリーの見逃しを後から視聴できるので,大変重宝していました。
ところが今朝,電源を入れても反応がありません。リモコンも本体ボタンも無反応。購入が2015年なので,寿命といえばそれまでですが,問題は本体よりも中に眠る録画データです。録画後20日を過ぎると自動的に上書きされていく仕組みですが,特に残したい番組だけは「保護設定」にしてハードディスク内に保存していました。それらが,一瞬にして“封印”されてしまったのです。
もちろん,ブルーレイディスクにダビングしておけば安心なのですが,保存したい番組すべてをバックアップするには膨大な時間とディスク枚数が必要です。もっと簡単なのは,外付けハードディスクに番組をコピーする方法ですが,これにも落とし穴があります。録画した番組は「録画した機器でしか再生できない」ように暗号化されており,別の機器に接続しても再生不能。つまり,同一人物であっても,自分の録画データを別のレコーダーで見ることができないのです。
この仕組みは,著作権保護のために導入された「ダビング10」や「コピーワンス」などのルールに基づくものです。著作権法では,番組制作者や放送事業者の権利を守るため,デジタル放送の録画や複製に厳しい制限が設けられています。確かに,放送コンテンツは膨大なコストと労力で制作された知的財産であり,無断コピーや販売を防ぐことは重要です。
しかし一方で,現行の著作権法では**「私的使用のための複製」**が認められています。つまり,自分で録画した番組を自分の家で見ること自体は合法なのです。にもかかわらず,機器を買い替えた途端に,自分の録画が「他人のもののように」扱われて再生できなくなるのは,どうにも理不尽に感じます。
今回のように,本体の故障ひとつで大切な映像資産がすべて見られなくなるのは,技術的制約というより,著作権保護の名を借りた過剰規制ではないでしょうか。ワタシ自身,特に思い入れのある番組だけはディスクに残してありますが,それ以外の多くの番組はもう二度と見ることができません。
放送各社やメーカーは,外付けHDDの暗号化方式を共通化するなど,最低限の利便性を確保する仕組みを検討してほしいと思います。視聴者は著作権を侵害するために録画しているのではなく,生活の中で少しでも豊かに情報を得たいだけなのです。
いまやテレビは「オールドメディア」と呼ばれ,若者のテレビ離れが深刻化しています。
その理由の一端は,利用者の立場に立たないルールにもあるのではないでしょうか。
著作権は創り手を守るための制度ですが,自己の利益と権利に固執し,視聴者を顧みなければ,やがて誰もテレビを見なくなると思います。
多少の柔軟さこそが,文化を育て,メディアを生かす知恵なのだと思います。
