近道よりも遠回りでも誠実に
先日,自宅で仕事をしていると,広告代理店から一本の電話がかかってきました。
県内のある自治体が発行する終活関連冊子への広告掲載のご案内とのことでした。
資料を送っていただき,中身を拝見しました。冊子そのものはよく作り込まれており,終活に関心のある方にとって有益な内容だと感じました。しかし,広告掲載料と期待できる効果を考えると,ワタシには見合わないと判断し,今回はお断りしました。
ところが数日後,再び電話がありました。
「掲載料を値下げいたしますので,いかがでしょうか」とのことでした。
それでもワタシの考えは変わりませんでしたので,改めてお断りしました。すると,「では,おいくらくらいならご検討いただけますか」と尋ねられました。そこで率直に,ワタシが妥当だと思う金額をお伝えしたところ,「その価格では難しいです」との回答でした。まあ,「それはそうだろうな」と思いました。
行政書士として仕事をしていると,こうした営業電話は少なくありません。
「登録料を支払えば,相続案件を紹介します」
「福利厚生サービスの会員から相談があれば紹介します」
といった内容です。
もちろん,すべてを否定するつもりはありません。しかし,多くの場合,紹介がなかったとしても登録料は返ってきません。リスクは登録者側が負担する仕組みです。
また,登録料は不要でも,実際に受任した際には報酬の半分近くを紹介料として支払う契約もあります。中には六割近い割合を求めるものもあります。
ワタシも行政書士になりたての頃は,「経験を積む機会になるなら」と考え,後から紹介料を支払い仕組みであるいくつかのサービスに登録したことがあります。
しかし,その後,契約期間完了するタイミングで順次解約してきました。
その大きな理由は,仕事には応分の責任が伴うと考えるからです。
相続や遺言の業務は,単なる事務的な書類作成ではありません。ご家族の事情を伺い,法律関係を整理し,将来起こり得るトラブルを防ぐために万全を尽くす仕事です。
もし報酬の半分を紹介料として差し引かれた場合,残された報酬の範囲で確保できる時間や労力だけで,本当に責任ある仕事ができるのだろうか。ワタシはいつもそのような疑問を感じます。
もちろん,不足する分を依頼者の報酬に上乗せすればよいという考え方もあるでしょう。しかし,ワタシはそれは適切ではないと考えています。
依頼者の方が支払う報酬には,当然ながら妥当な範囲があると考えているからです。自分の利益を確保するためだけに,必要以上の費用を請求することは,依頼者に対する背信ではないかと感じてしまうのです。
相続や遺言の仕事は,結局のところ信頼の上に成り立っています。
派手な宣伝や紹介制度によって仕事が増えることもあるかもしれません。しかし,長く続く仕事というのは,目の前の依頼者に誠実に向き合った結果として生まれるものではないでしょうか。
ワタシの事務所は決して大きくありませんし,仕事が急に何倍にも増えるような魔法の方法も知りません。
それでも,一件一件のご依頼に真剣に向き合い,依頼者の方に「頼んで良かった」と思っていただく。その積み重ねが,やがて次のご縁につながるのだと思っています。
近道に見える道が,本当に近道とは限りません。
行政書士として独立してから,ワタシが学んだことの一つは,「信頼を積み重ねることこそが,遠回りに見えても,実は一番確実な近道なのかもしれない」ということです。
これからも派手さはありませんが,目の前の依頼者の方とのご縁を大切にしながら,一歩ずつ歩いていきたいと思います。
