遺言書のデジタル化と行政書士の役割
遺言書と聞くと,「自分で紙に手書きするもの」というイメージを持つ方が多いのではないでしょうか。これは「自筆証書遺言」と呼ばれる形式で,全文を自筆し,署名と押印をすれば成立します。費用もかからず手軽に作れますが,実は注意点も少なくありません。
例えば,夫婦で連名して作ることはできませんし,日付も「吉日」など特定できない表現は不可とされています。また,財産目録以外はすべて本人が自筆しなければならないため,高齢になると字を書く作業そのものが負担になることもあります。こうした法律上の要件を満たさないと,せっかく残した遺言書が無効になってしまうこともあるのです。さらに,遺言書は作成後に密封して保管する必要があり,遺言者が亡くなった場合,開封前には家庭裁判所での「検認」を受けなければなりません。この手続きを経ないと,遺言書はすぐに効力を発揮できません。
ここで注目したいのが,近年導入された「自筆証書遺言保管制度」です。
自筆証書は、密封して保管する必要があり、開封前には家庭裁判所の検認を受ける必要がありましたが,現在は法務局に自筆証書遺言を保管してもらう「自筆証書遺言保管制度」があり,遺言書作成の際に民法に定める自筆証書遺言の形式に適合するかについて外形的なチェックが受けられますし,家庭裁判所の検認を受ける必要もなく,遺言書の紛失・亡失のおそれがなく,相続人等の利害関係者による遺言書の破棄、隠匿、改ざん等を防ぐことができ安心です。
この制度により,これまで「家の引き出しや金庫にしまっておくしかなかった遺言書」を,より安全に、確実に残せるようになりました。制度を理解し上手に活用すれば,「書いたのに見つからなかった」「勝手に開けられてしまった」といったトラブルを防ぐことができます。
一方で「公正証書遺言」という方法もあります。こちらは公証人が内容を確認しながら作成するため,形式も厳格で費用もかかりますが,その分トラブルを避けやすい安心感があります。そして2025年からは,この公正証書遺言をデジタルで作成できるようになりました。紙の原本に代わりPDF形式で保管され,正本や謄本も電子データとして受け取ることができます。希望すれば紙で交付してもらうことも可能です。さらにWeb会議を利用して公証人とやり取りできるようになり,外出が難しい方や遠方に住む方にも使いやすい仕組みとなりました。
また,将来的には自筆証書遺言についても,パソコンやスマートフォンで作成できるようにする議論が進められています。本人確認のために録音や動画を組み合わせる案もあり,制度が整えば,より柔軟に「想い」を残せる時代が来るかもしれません。
ただ,制度がどれだけ便利になっても,「自分は何を残したいのか」「家族にどう伝えたいのか」という根本的な悩みは変わりません。むしろ選択肢が増える分,あらかじめ考えを整理しておくことがより大切になります。
そこで行政書士の出番です。遺言書の文案を一緒に考えたり,公証人とのやり取りをサポートしたり,自筆証書遺言の保管制度を利用する際のご相談に応じたりと,幅広くお手伝いできます。デジタル化にともなう手続きや機材の使い方についても,わかりやすくご案内することができます。
「遺言書を作りたいけれど,どこから手をつけたらいいのかわからない」
「家族にきちんと想いを伝えたい」
そんなお気持ちを形にするために,行政書士は制度と暮らしの間をつなぐ“身近な相談相手”でありたいと考えています。
遺言書のデジタル化は,単なる技術革新ではなく,「将来への備えをもっと身近にする」ための大きな一歩です。この変化をきっかけに,ご自身やご家族の未来について少し思いをめぐらせてみてはいかがでしょうか。

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